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第一話 Deep Breath [シリーズ8]

2014年八月、12代目ドクターによる新シリーズ「8」がついに開始。
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http://tardis.wikia.com/wiki/Deep_Breath_(TV_story)
Deep Breath
Doctor:Twelfth Doctor
Companion(s): Clara
Featuring: Vastra, Jenny, Strax, Eleventh Doctor
Main enemy: Half-Face Man, Clockwork Droids
Main setting: London, 1890s
Writer: Steven Moffat
Director: Ben Wheatley
Producer: Nikki Wilson

19世紀ヴィクトリア朝時代のロンドンの街に突然巨大な恐竜が現れた。逃げ惑う市民と混乱する警官達。そこにスコットランドヤードが頭を悩ます難事件を解決する名探偵マダム・ヴァストラとその助手のジェニーそしてストラックスが駆けつけてきた。警部は救いを求めるように一行にすがる。

「これは一体どうなっとるんですか???」

その時恐竜は何かを吐きだした。それは青い大きな箱状の物体、そして白文字でPOLICE BOXと書かれていた・・・・。

200px-TARDIS-trans.jpg

これから先は実際見たあとお読みください。

青い箱の中からヨロヨロと白髪の男が出てくる。普段は人間の男性と女性の区別もつかないクローン兵士のストラックスだけは「ドクター?」とすぐに気付いた。そのドクター自身はまだ記憶が混乱しているのかクララのことさえ思いつかず、意味不明なことを口走り続けている。

突然ドクターが気絶してしまうと、すべてを悟ったヴァストラがあの言葉をつぶやく。
Here we go again
*三代目ドクターから四代目への再生の現場に居合わせたUNITのレスブリッジ・スチュアート准将がつぶやいた言葉。

ドクターはヴァストラの屋敷にひきとられ静養のためベッドに入れられる。階下ではクララがヴァストラとジェニーに恐竜の口からTARDISが飛び出てきた経緯を説明していた。再生のショックとエネルギーでTARDISはありとあらゆる時間と空間のあちこちにぶつかり制御不能のままある時点で恐竜に飲みか稀かけたらしい。恐竜の喉にひっかかったままTARDISは時間と空間を跳躍し、その恐竜ごとヴァストラ達の住む19世紀ロンドンに不時着してしまい・・・というのが疲れ切ったクララの説明だった。ドクターに元に戻ってほしいと願う彼女をヴァストラが責める。彼はもう2千歳を超えたタイム・ロードで、今までの若い姿は外見だけのことである。今回の再生後の初老の姿は彼がクララを信頼して彼本来の姿を見せたということでもある。それをあなたは「若くハンサムではない」ということで拒否するというのか?

恐竜のことが心配なドクターは部屋を抜け出してしまう。屋根の上からテムズ川のほとり隔離された恐竜に叫んで話しかけるドクター。「きっと君をもとのところに戻してあげるから!」そのとき恐竜の身体が炎に包まれた。寝間着姿のまま夜道を通りかかった馬車の馬を強奪し現場へと急ぐドクター。

恐竜の異変に気付いたヴァストラたちも馬車を走らせ恐竜のもとへと急ぐ。彼らが到着するとすでにドクターが先に来ていたことを知り驚く。怒りと絶望の表情で人間に対する悪態をつくドクター。彼は同時に恐竜の炎上騒ぎに集まってきた群衆の中に異様な男を見つけた。クララはそのまま川に飛び込んでどこかへ行ってしまったドクターを心配するが、ヴァストラが冷静に諭す。

「ドクターがこの事件を取り上げた。それなら我々はいつものように手伝うだけ。屋敷で待ちましょう」

丁度そのときドクターが見つけた不審者が群衆の中の一人の男に告げていた。「お前の目はいい。私の目はよくない。お前の目をいただこう」不審者の顔半分は骨組みがむき出しになっている。彼はロボットだったのだ。。。


翌朝ストラックスがTARDISを見つけ屋敷の庭に運びこんでドクターの帰りを待つ準備をした。しかしドクターの行き先の手掛かりはない。クララはある新聞広告の文言に目をつける。

Impossible Girl

それは以前のドクターがクララをのことを表現するときに使った言葉そのものだった。クララはその広告を手掛かりに一人レストランへと出かける。これはきっとドクターからのメッセージに違いない。確かにドクターはそのレストランにいた。路上生活者から腕時計と交換して手に入れたボロ着に身を包んで・・・。ドクターは同じ新聞広告をクララからの自分へのメッセージだと思っていた。何かがおかしい。

気がつくとそのレストランの中の他の客は食事のふりをしているだけで何も食べてはいない。食事どころか息もしていないということに気付くドクター。客も給仕もすべて自動人形だったのだ。給仕役のロボットに部品として品定めされた二人は椅子に拘束されたまま地下へとエレベーターで下ろされる。このままでは身体の器官を摘出されてしまう!

ソニック・スクリュードライバーを使ってなんとか拘束から抜け出した二人は、そこに停止した自動人形=ロボットたちがいることを見つける。中央の椅子に座ったまま停止しているのは、ドクターが目をつけたあの顔半分が機械むき出しの不審な男だ。ドクターはまだ混乱気味の記憶の中から似たような光景を思い出しつつあったが、はっきりと思い出せずにいる。逃げ道を探して先を急ぐ二人、しかし途中でドアが閉まりクララだけが残されてしまった。

「早くソニックで開けて!」助けを求めたクララにドクターは微妙な表情で答える「あ~うん、でもこのドアすごく重いし、やらなきゃいけないことあるし、先を急ぐんで・・・」なんとドクターはまたも一人でどこかへ行ってしまった!

ショックを受けたクララの背後に、活動状態に入ったあの機械顔の男が近づいてくる。「もう一人はどこへ行った?」その不気味さに恐怖しながらクララは気丈にも対抗してみせる。「恐竜を焼いたのはあなたたちね。どうしてそんなことしたの!?」機械顔の男は拷問をちらつかせてクララの問いを無視する。恐怖と戦いながら必死に食い下がり機械顔の男達の目的やその理由を問い詰めるクララ。まるでドクターの代わりに真相を究明してみせるかのように・・・。ロボット達は恐竜の体組織の一部が必要だったのだ。しかし恐竜の組織が使えるということを知っているということは、ロボット達は以前から恐竜を知っていたということだ。では彼らはそんなに昔から地球に?でもなぜ?約束の地にたどりつくためだという。一体何のことを・・・。

「もう一人はどこへ行った?」機械顔の男から最後通牒が告げられた。

「ドクターがどこに行ったか私も知らないわ。でももしドクターがまだ私の知っているドクターのままなら・・・彼はいつだって私の背後で私を守ってくれる!」そのとき自動人形の一体がクララの手を引いて自分の背後にまわらせた。まるでクララを守るかのように。その自動人形は自分の顔面の表皮をはぎ取る。そこに現れた顔はドクターだった。

「やあ、おバカなロボット君。もうやめときたまえ。私は君たちの動力源を吹き飛ばすことで君達の企みを阻止できる。クララよく頑張った」よく頑張ったじゃないわよ、見捨てられたかと思ったのよ!と一気にドクターに怒り出すクララ。ドクターは取り合わない。

「しかし何だって新聞広告なんか使って我々二人をこの店に招待なんかしたんだ?」機械顔の男は何のことかわからないらしい。ドクターとクララは誰か別のものによっておびきだされ、たまたまロボット達の欲する原料の一部として選定され拉致されたのだ。とにかく逃げなければ。

ドクター「クララ、合言葉を言いなさい」

クララ「合言葉って?」

ドクター「彼らがもしものときの合言葉もなしで君一人を送り出すわけがない」

クララ「言いたくありませんっ」

ドクター「まあ、何だかわかってるけどね」

クララとドクター(声を合わせて)「ジェロニモ」

天井から戦闘服に身をまとったヴァストラとジェニーが降下してくる。やや遅れてストラックスも「落下」してきた・・・。

ヴァストラが威厳に満ちた声でロボット達に降伏をするように告げる。すでに警察には通報済みで階上のレストランは包囲され閉鎖されるであろう、もはやお前たちに逃げ道はないと。ドクターを殺そうと詰め寄る機械顔の男と、ドクターを守るようにその前に立ちはだかったヴァストラがもみあう。多数の自動人形たちも起動しドクターたちを包囲する。

「我々は約束の地に行くのだ。脱出カプセルを使う」乱戦の中から抜け出した機械顔の男は、一人エレベーターで階上へと向かう。そのエレベーターの底面にはドクターがぶらさがり追跡を続けている。地下ではクララ、ヴァストラ、ジェニーそしてストラックスが襲い掛かってくる機械人形たちと戦っている・・・。地上のレストランには警部が到着した。しかし店に上昇してきた機械顔の男に危険を察し、本署へと応援の要請を送っていた。

警官に包囲されつつあった店内、ドクターはついに記憶をたどってこのロボット達の素性をつきとめ、その目的を察した。ロボット達は51世紀の宇宙船の自動整備装置、時間旅行の中で恐竜時代の地球に難破し船員の人間をすべて失った彼らは、そのときから自動で生物の体組織を船の機関として再利用しながら船の修理を進めていたのだ。。。ドクターはその船のオリジナル部品と思われる部品に刻印された船名を見た。

「マリー・アントワネット号」

あのマダム・ポンパドール号の姉妹船に間違いない。ポンパドール号のロボット達がそうしたのと同じく、機械顔の男の指揮下のロボット達も船の復旧のみを目的として行動しているのだ。
*シリーズ2第四話「暖炉の中の少女」で十代目ドクターが出会い戦った。「暖炉の中の少女」はドクターが歴史上の人物マダム・ポンパドールと恋に落ちかける可憐なラブ・ストーリーと、新橋サラリーマン伝統の技「酔っ払いネクタイはちまき」が英国にも存在したという驚異の発見(笑)で人気のエピソード

生物の皮を使って作られた気球だった脱出ポッドを発進させた機械顔の男。ドクターは気づいた。このロボットはもはや元の宇宙船自動修復装置ではない。永い時間をかけ体の部品として有機生物の器官を取り込み続けたことによって、機械ではないものに変化していたのだ。純粋な生物でもなく機械でもない機械顔の男。「約束の地へたどり着く」という執念は、既に命令されたことを実行するマシーンのそれを超え、生物化したことことによってその執念は人間の妄想にまで近くなっている。

非暴力主義の人ドクターは苦渋の選択を迫られている。ドクターは殺人を忌む。眼前の機械顔の男はもはや半分人間といっていい。しかし彼を止めなければさらに多くの命が奪われるだろう。今もクララ達が地下で自動人形たちに包囲され攻撃されている。司令塔である機械顔の男が停止すれば他の自動人形も停止するはずだ。ではそのために機械顔の男を自らの手で停止=殺害するのか?

ドクターは機械顔の男に語り掛け続け、機械として自爆を選んでくれと説得を試みる。機械顔の男の人間の部分の理性に「機械としての部分の行いが他の人類に害をなしている」ということを納得させるために。気球でつるされロンドン上空を漂たレストラン部分=脱出ポッドの中、二人はもみあう。二人の心の中でも各々理性と執念、理性と信条がもみあっている。その頃地下のクララ達は完全に追い詰められていた。自動人形達は倒しても倒してもすぐに動き出す。息を止めて人間の気配を消してやりすごすことを思いついたクララだったが、それも長くは続けられない。機械人形に包囲されたクララ達の命はまさに風前の灯だ。

ドクター「お前も気づいているだろう、我々のどちらかが自身を偽ろうとしているのを」


そして・・・

クララ達を襲う自動人形たちが一斉に停止した。自動人形たちの司令塔である機械男は、無残にも高い塔のてっぺんの十字架に貫かれていた。その姿を上空から見下ろすドクターの目は赤く、表情には苦痛が浮かんでいる。

危機を脱し屋敷に帰ったクララ達は庭に置かれたTADISが消えていることを見つける。ドクターは一人でどこかへ行ってしまったのだろうか。


・・・・・・・・

自室で瞑想をしていたヴァストラにクララが話しかける。「ドクターはどこかへ消えてしまったし、私は自分の時代に帰れないし・・・。この屋敷においてもらえるかしら?」

ヴァストラは優しく答える。「もちろん、大歓迎よ。でもドクターはすぐあなたの所へ戻ってくるわ。あなたも無意識にそれを知っているようね。もう着替えている」クララはしばらく着続けていた19世紀風のドレスではなく、元の自分の洋服姿に戻っている。TARDISの着陸音が聞こえたのはそのときだった。庭に駆け出すクララ。その背後にヴァストラが楽しげに声をかける。「彼をとっちめてあげなさい」

TARDISにそっと入るクララ。内部がやや改装されているのに気付いて声がはずむ。「模様替えしたのね」すかさず「気にいらない!」
*やや楽しげに”You've redecorated. ” 続けてすかさず” I don't like it.” これはドクター・フーの数多い定番ギャグのひとつ。初出はおそらく二代目ドクター。その二代目を役作りの参考にしたという11代目も小ネタとしてうまく使い、50周年記念エピソードでは10代目まで披露してみせた。

新たに本棚がしつらえられた壁面から階段をおりながらドクターが語り掛ける。

ドクター「私は2千年以上生きてきた。その間いつも正しかったわけじゃない。思えば沢山の過ちもおかしてきた。そろそろそれらを正すべき時だ。・・・クララ・・・、私は君のボーイ・フレンドじゃないんだ」

クララ「そんな風に思ってなんかいません」

ドクター「君がそう思ってるとは言ってないんだが・・・」

二人の間にまだはっきりとしない疑問が残っている。あの新聞広告を出したのは誰か?そもそも21世紀のクララ・オスワルドにTARDISの電話番号を教えたのは何者だったのか?

再生したドクターに対してまだ態度を決めかねているクララは、とまどいながらドクターに語り掛ける。「ごめんなさい、本当にごめんなさい。でもあなたのことがわからなくて・・・」ドクターはクララがやや寂しげにTARDISの行き先をクララの家へとセットしだす。クララの携帯が鳴る。

ドクター「ボーイ・フレンドからだろう?早く出てあげなさい」
「うるさいわね。ボーイ・フレンドなんていませんったら」苦笑いしながら答えるクララ。

TARDISの外に出て携帯に出るクララ。「もしもし?」「もしもし、僕だ」若い男の声がする。


「誰?」

「僕だよ、クララ。ドクターだよ。」

電話の声の主は再生する前のドクターだった。

ドクター(11代目)「トレンザロアからかけてる。再生前だ。もうすぐ再生が始まる。もうすぐだ・・・」
若いドクターの声は苦しそうだ。クララの脳裏に最後にトレンザロアでTARDISに乗り込む直前の光景がフラッシュバックした。そうだ、あのとき表の電話の受話器が・・・。「どうしてこんなことを?」クララの目には涙が浮かんでいる。

ドクター(11代目)「大事なことなんだ。君は今怯えているに違いない。でもねクララ、君が今一緒にいる男、彼はもっと怯えているんだ。彼には君が必要なんだ」

「で、誰からかね?」TARDISの中から今のドクターが声をかけてきた。


ドクター(11代目)「今の声、ドクター?」
ドクター(12代目)「ドクターからかい?」

クララ「そう」

ドクター(11代目)「なんか年寄りに聞こえるぞ?うわ~勘弁してくれ、年なんかとりたくないんだ。僕は若かったんだ。彼の髪、グレー?」

クララ「そう」
思わず吹き出すクララ。

ドクター(11代目)「クララ、お願いだ。僕のためでもある、彼を助けて。怯えないで。」

・・・・・・・

「じゃあ、クララ。さよなら・・・」そう言って過去からの声は消えた。クララはすすり泣いている。

ドクター(12代目)「・・・それで・・・?」
クララ「それでって?」
ドクター「彼は君に頼んだだろう。私を助けてくれるかい?」
クララ「盗み聞きなんてしちゃダメよ」
ドクター「してないよ。する必要もない。だってそれを頼んだのは『私』だ。君には私が見えていないのかね?君は僕の方を見る、だけど私自身を見てはいない。それがどんな気持ちになるか想像できるかね?私は電話で話しているんじゃない、今ここに、君の前にいるんだ。私を良くみてくれないか?」

ドクターに近づいてジロジロと見回すクララ。自分で言っておきながら見つめられてひるみ気味のドクター。

「ありがとう」クララが言った。
ドクター「ありがとうって、何に?」
クララ「電話、ありがとう!」

笑顔が戻ったクララがドクターの首に腕をまわしてハグをした。

ドクター「あ~私はその~今やハグを好むような性質ではなくなったようなんだが・・・」
クララ「その意見は否決されます!」
ドクター「まあ・・・いいか」

楽しげにハグするクララに対し、ドクターは自分の腕をどうしたものかと変な姿勢のまま固まっている。


クララ「ところでここどこ?私の家じゃないわよ」
ドクター「ごめん。行き先間違えたらしい・・・グラスゴー・・・だと思う」
クララ「いかにもスコットランド人ね!」すっかり元の明るさを取り戻したクララが笑いとばす。

クララ「コーヒーあなたがおごるのよ」
二人そろってグラスゴーの街を歩きだすドクターとクララだった。






・・・・・・・・・・

あの機械顔の男が目を覚ました。どこかの明るい庭先のようだ。
女性が語り掛ける。「こんにちは。私はミッシー。あなた、とうとうたどり着いたわね。私の彼氏があなたにあまり意地悪してなければいいんだけど」
機械顔の男「彼氏?」
ミッシー「彼があなたを突き落としたのかしら、それともあなたが自分で飛び降りたの?本当にどっちだかわからないわよね、彼ったら時々人にすごくひどいことするのよ、勿論私は別だけど。だってほら、彼ったら私のこと愛してるから」
機械顔の男「ここは何処だ?」
ミッシー「よく周りを御覧なさい。あなたはたどり着いたのよ。ここが『約束の地』、楽園よ天国に来たの」

踊るように庭の噴水の周りをまわるミッシーと名乗った女性は、まるで黒衣のメリー・ポピンズのようだった・・・



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新シリーズの第一回目、とにかくクスリとする小ネタが満載されているのが特徴です。最初のドクター・フーのテーマ曲までの恐竜から吐き出されたTARDISの周りでものすごいテンポで展開されるお笑いシーン。11代目のあのアメリアとのかみ合ってないようでかみ合ってる掛け合いを思い出させられる、モファットの十八番の展開です。

放映当時「以前の人気キャラに頼りすぎ」という声があがったくらい、ヴァストラ・ジェニー・ストラックスの三人組が大活躍です。ヴァストラとジェニーという同性異種婚というハイパー・リベラルなカップルの関係が、女主人とメイドという表面上のものとはまったく違うのだということが描かれます。ジェニーは初登場からちょっとやきもち焼きという性格付けでしたが、今回さらに一歩踏み込んで少しクララに色目を使いそうになったヴァストラのおでこをビシっと叩いて「結婚してるんですよ!」とか突っ込みます。ヴァストラも一応「シャー!」と武器にもなるあの舌を見せて威嚇したりはしますが、特に怒った様子もありません。

ヴァストラの絵画のモデルだと思ってポーズをつけていたジェニーなのに、ヴァストラがキャンバスに書き込んでいたのイは不審事件の発生の地図。「それじゃ私はなんでこんなポーズさせられてたんですか」と文句を言うジェニーにばつが悪そうに「・・・芸術かしら?」と言い訳をするヴァストラ。

ストラックスはクララとの漫才みたいなやりとりで笑かします。このストラックスのせいもあってかクララがまるでマンガみたいな動きになってきて更に笑かしてくれます。ストラックスの投げた丸めた新聞が顔面に直撃、ドクターに「エゴ・マニアック」「コントロール・フリーク」とその気の強さを表現され、手足をバタバタさせて「私はコントロール・フリークなんかじゃありません!!」と反論。この後シリーズを通してどんどん生き生きしてくるクララとその全身での感情表現ですが、その始まりはこのDeep Breathでした。

新しい外見と個性を持った新ドクターを軟着陸させるために人気キャラのいるドクター・フー伝統の19世紀ロンドンに舞台をおいたのはうまかったと思います。

モファット・マジックとかモファット・ループと呼ばれる時間の操作でストーリーを膨らませる手法も健在です。放映直後はその手法に気付きながらも割と小粒な印象を持った第一話でしたが、シリーズを通して見終わった後改めて見返すと完成度の高さに驚かされます。

このお話の最大のループ効果は11代目の最期の瞬間と12代目とクララを、ドクター・フーの世界で重要なアイテムである電話でつなげてみせたところ、そしてさらにそのループをシリーズ8の裏テーマとも言える「見ること」とつなげていることだと思います。シリーズ8の裏テーマを「見ること」と書きましたが、これは冒頭の再生して顔が変わったドクターとストラックスのやりとりからスタートし、この後シリーズを通して何度となく出てきます。

例えばソンターランのクローン兵士ストラックスは人間の男女の区別がつきません。少年に向かって「Girl」と呼びかけ、女性に向かって「Boy」と呼びかけます。髪の毛と頭そのものと帽子の区別もつきません。今回はクララのコートと服のみならず、目と口まで取り違えてます(笑)。そのトンチンカンさがストラックスの魅力であり人気の秘訣なのですが、再生をした直後のドクターを一目でドクターと認識できたのはそのストラックスだけなのです。ストラックスは外見の差異にこだわらず常に本質を見ているのかもしれません。こんなちょっとしたところで、ただの道化役に終わらせずキャラクターの個性を膨らませるという点が、視聴率やスポンサーへの配慮が優先される傾向の他のドラマ作りと違っています。作る側、演じる側が本当に丁寧に愛情をこめて「ドクター・フー」を作っている証の一つだと思います。

その反面、相変わらず再生についての謎は残ったまま、というかまだ設定が完全に定まっていないということもわかりました。再生はタイム・ロードの意志が反映されるのか?どうやらドクター自身もよくわかっていない様子。しかしタイム・ロードという種族やドクターを良く知っている(らしい)サイルリアンという太古からの文明を持つ種族であるマダム・ヴァストラは、きっぱりと「ドクターはクララを信用しているからこそ実際の2千歳という年齢に見合ったような初老の顔を選んだ」と言い切っています。

おそらく現制作陣は後々のことまで考えて明確な設定をさけているのではないでしょうか?ガチガチに設定をしてしまって後で自分たちの自由がなくなる・あるいは自分たちから将来引き継ぐであろう新しい制作陣が不自由になることを危惧してある程度の自由度を残しているのではないでしょうか。

「タイム・ロードの再生は12回」という設定はクラシックと呼ばれる旧シリーズからのものですが、当時はまさかドクターが12回も再生するとは思いもよらなかったのでしょう。この12回の壁を見事にストーリーに溶け込ませて解決して見せたのが、Deep Breathの直前11代目から12代目への再生があったマット・スミス最後のクリスマス・スペシャルの回だったわけですが、それ以前に現製作陣は致命的なことをやった過去があります。

ドクターの再生回数を数えていくと11代目で最期それ以降は再生ができないということにな。。。あれ?11代目、シリーズ6でリヴァーに撃たれて再生しかけてなかったか?(爆)

話を戻して「見るということ」について。実はドクターもストラックスのことをバカにできないというか、人間とはまったく違う物の見方をしていることがシリーズを通して明らかになってきます。化粧をしたままのクララに「どうせもう化粧落としてるじゃないか」と言ったりしますし、2014のクリスマス・スペシャルの終盤、老齢になった姿から再び若い容姿に戻ったクララから「私どうなった?若い?」と聞かれてもとっさにわからず、あわてて鏡を探してクララ自身に確認させたりします。ドクターの目にはクララの姿は常に20代半ばの、ドクターと一緒にTARDISで冒険をしていた頃の姿あるいは19世紀のロンドンで家庭教師をしていた時の美しい姿に映りつづけてるのでしょう。

そんなわけだからおめかししたクララに「見て見て!」と促されても「見てるけど」と反応が薄かったりしたのです。決して男性の無神経さではなくドクターというエイリアンの物の見え方から起こった問題なのです、きっと(笑)。シリーズ7後半から謎めいた存在として登場し、ローズ以来のドクターのロマンスのお相手として見られてきたクララ。このドクターとクララの関係はこのDeep Breathで一度リセットされ、シリーズが進むにつれさらに強く結びついていきます。

個人的にこのDeepBreathで残念だったのは、放映前に流出したシナリオや字幕作成用に他国のテレビ局内部に先行配布されたパイロット版の情報から、クライマックスの11代目からのクララへの電話というプロットがツイッターなどで流れてしまったのを見てしまったことです。あれさえ目にしなければもっと・・・。とにかくどんどんと変わる展開や意外な人の登場が大きな魅力のドクター・フー、本来は見る前に可能なだけ情報は遮断するのが吉です。

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